1. 数量的矛盾

 STAP論文の方法(Article Method)記載によれば、1匹のマウスから得られるCD45陽性細胞数は約10^6個である。酸処理後の生存率は約20〜30%とされ(Article Fig.1d)、そのうち緑色蛍光を示す細胞は約50%と報告されている。したがって、緑色蛍光を示す生存細胞の数は約1.25×10^5個と算出される。
 STAP論文中では、テラトーマ形成に必要な細胞数を10^7個と記載している。1回の実験で5箇所への移植を行なったとすれば、必要な細胞総数は5×10^7個となる。酸暴露後の緑色蛍光細胞数(約1.25×10^5個)をもとに逆算すると、1回のテラトーマ実験を成立させるには約400匹のマウスが必要となる。若山研究室の飼育能力および使用記録(2011年10回、2012年20回、(系統別)計150匹程度)から見て、これは物理的に不可能である。
 一方、相澤らの再現実験では、緑色蛍光細胞凝集体は10^6個の播種細胞あたり約10個に過ぎず、各凝集体の細胞数は10〜30個と報告された。これをもとに換算すると、生存細胞数は100〜300個程度であり、原論文の主張する1.25x10^5個とは3桁以上の乖離がある。
 この数量的矛盾は、酸暴露細胞から得られる生存細胞のみでは、論文記載の実験スケールを実現できないことを意味している。

2. 記録の矛盾と事後改ざん

 2014年に疑義が指摘された際、理研に提出された弁護団作成の「テラトーマ移植記録」では、1箇所あたり10^5個の細胞を5箇所に注入したと記載されていた。しかし、この記録は実験当時に作成されたものではなく、事後に弁護団によりタイプ入力された再構成資料である。
 この記録は、1回の実験に使用された細胞総数は5×10^5個となっており、実験記録から論文に記載する際に生じた誤記としても論文記載の10^7個とは2桁の差がある。したがって、この記録は論文との整合性を保つための数量調整(データ捏造・改ざん)の可能性を示唆し、実験記録としての証拠能力を持たない。

3.STAP論文(Article)記載の生存細胞数等がそもそも正しいのか

 STAP論文において、酸暴露後の生存細胞数、Oct4-GFPの発現量の記載は本文において、以下のように記載されている。
 Without exposure to the stimulus, none of the cells sorted with CD45 expressed Oct4–GFP, regardless of the culture period in LIF + B27 medium. In contrast, a 30-min treatment with low-pH medium (25-min incubation followed by 5-min centrifugation; Fig. 1a; the most effective range was pH 5.4–5.8; Extended Data Fig. 1a) caused the emergence of substantial numbers of spherical clusters that expressed Oct4–GFP in day-7 culture (Fig. 1b). Substantial numbers of GFP⁺ cells appeared in all cases performed with neonatal splenic cells (n = 30 experiments). The emergence of Oct4–GFP+ cells at the expense of CD45+ cells was also observed by flow cytometry (Fig. 1c, top, and Extended Data Fig. 1b, c). We next fractionated CD45+ cells into populations positive and negative for CD90 (T cells), CD19 (B cells) and CD34 (haematopoietic progenitors), and subjected them to low-pH treatment. Cells of these fractions, including T and B cells, generated Oct4–GFP⁺ cells at an efficacy comparable to unfractionated CD45+ cells (25–50% of surviving cells on day 7), except for CD34+ haematopoietic progenitors, which rarely produced Oct4–GFP+ cells (<2 %; Extended Data Fig. 1d).
(刺激(低 pH 処理)を与えない場合、CD45 でソートした細胞は、LIF+B27 培地でどれだけ培養しても Oct4–GFP を発現することはなかった。これに対して、低 pH 培地による 30 分間の処理(25 分間のインキュベーションと 5 分間の遠心、Fig. 1a。最も有効だった pH は 5.4–5.8、Extended Data Fig. 1a)を行うと、培養 7 日目に Oct4–GFP を発現する球状クラスターが多数出現した(Fig. 1b)。新生仔マウスの脾臓細胞で行った全てのケース(n = 30)で、多数の GFP 陽性細胞が出現した。CD45+細胞が減少する一方で Oct4–GFP+細胞が現れる現象は、フローサイトメトリーでも確認された(Fig. 1c 上段、Extended Data Fig. 1b, c)。次に CD45+ 細胞を、CD90(T 細胞)、CD19(B 細胞)、CD34(造血前駆細胞)それぞれの陽性・陰性集団に分け、低 pH 処理を行った。これらの分画細胞、T 細胞や B 細胞を含む各集団は、未分画の CD45+ 細胞と同程度の効率(生存細胞の 25–50%)で Oct4–GFP+細胞を生成した。ただし CD34+造血前駆細胞のみは例外で、Oct4–GFP+細胞の生成はほとんど見られず、2%未満であった(Extended Data Fig. 1d)。)

 Most of the surviving cells on day 1 were still CD45+ and Oct4–GFP-. On day 3, the total cell numbers were reduced to between one-third to one-half of the day 0 population (Fig. 1d; see Extended Data Fig. 1g, h for apoptosis analysis), and a substantial number of total surviving cells became Oct4–GFP+ (Fig. 1d), albeit with relatively weak signal intensity.On day 7, a significant number of Oct4–GFP+ CD45- cells (one-half to two-thirds of total surviving cells) constituted a distinct population from the Oct4–GFP- CD45- cells (Fig. 1c, top, day 7, and Fig. 1d). No obvious generation of Oct4–GFP+ CD45- populations was seen in non-treated CD45+ cells cultured similarly but without low-pH treatment (Fig. 1c, bottom).
(1日目に生存していた細胞の大部分は、依然として CD45陽性かつ Oct4–GFP陰性であった。3日目には、総細胞数は day 0 の 3分の1〜2分の1 にまで減少していた(Fig. 1d。アポトーシス解析については Extended Data Fig. 1g, h を参照)。そして、生存細胞の相当数が Oct4–GFP陽性となっていたが、そのシグナル強度は比較的弱かった(Fig. 1d)。7日目には、Oct4–GFP陽性 CD45陰性細胞が生存細胞全体の 2分の1〜3分の2 を占め、同じく CD45陰性であるが Oct4–GFP陰性の細胞とは区別される集団を構成していた(Fig. 1c[上段・day 7]および Fig. 1d)。対照として、低pH処理を行わず同様に培養した CD45陽性細胞では、Oct4–GFP陽性 CD45陰性集団の明確な生成は見られなかった(Fig. 1c[下段])。)

また、Fig.1c(FACSによる)とFig.1dのグラフとして記載されている(以下は図表キャプション。)

c, FACS analysis. The x axis shows CD45 epifluorescence level; y axis shows Oct4-GFP level. Non-treated, cultured in the same medium but nottreated with low pH.

d, GFP+(green) and GFP- (yellow) cell populations (average cell numbers per visual field; x10 objective lens). n=25; error bars show average ±s.d.

 これら論文記載(図表含む)を詳細に精査するとFig.1cとFig.1dとで大きな矛盾が認められる。顕微鏡による目視蛍光観察day7によれば、Oct4-GFP陽性細胞:Oct4-GPF陰性細胞=約1:1となっている(Fig. 1d)。この時のOct4-GFP陽性は目視蛍光観察のため、自家蛍光などのアーティファクトによる誤認が含まれるので実際には、Oct4-GFP陽性細胞  この矛盾点に関して、P. Knoepfler氏が以下のように同様の指摘を行なっている。

【P. Knoepfler氏の指摘(2014年2月23日)】
Figure 1c:
Figure 1c is FACS analysis of the Oct4-GFP reporter turning on at day 7. The upper 2 panels are low-pH treated cells. By day 7 this data would suggest that basically 100% of cells became GFP+, a stunning reported finding.
(day 7 における Oct4-GFP の FACS 解析。上段2つのパネルが低 pH 処理群です。day 7 のデータは、細胞のほぼ100%が GFP+ になったことを示すように見えます。驚くべき結果です。)
Figure 1d:
Figure 1d is a quantification of viable cells by relative GFP status reporting a conversion to a GFP+ state in about 50% of cells by d7. This would seem to conflict with Figure 1c.
(生細胞の GFP+/GFP- の割合を示した定量データ。day 7 では約50%が GFP+ に変化したという内容です。これは Figure 1c と矛盾しているように思われます。)

(oTake 2025年11月16日 20:07より)

 ここで着目したいのが理研の丹羽による検証実験によれば、酸暴露後の生存細胞数は1%未満であり、酸暴露後のGFP検出結果によればPCR法、免疫染色法により検出されているが、FACSによる検出は複数の細胞種いずれからも検出されていない。
 FACSによるday1とday7とで同程度の数となっている点(Fig.1d)からこれらは同日に同程度の数のCD45陽性細胞をFACSで検出し、そのグラフのxとy軸を入れ替え、あたかもCD45陽性細胞がOct4-GFP陽性細胞に転化したかのように捏造したものと考えるのが妥当である。
 また、細胞数量観察は理研等の検証実験と大きく乖離しているため、実際の細胞数を計測せず、Fig.1cに基づく手動でストーリーに合う形で、作出・捏造したと考えるのが妥当である。

4. 細胞数やOct4-GFP発現量に関する結論

 実際の生存細胞数が数百分の一だったとすると、生存細胞が増殖しない特性であるため、大量に細胞を要するテラトーマ形成能実験、メチル化解析実験、ChIP-sec等の全ての実験は物理的に不可能なため、その実験動機そのものが存在せず、実験を行なったと主張するのであれば増殖する細胞、ES細胞等を意図的に混入して研究不正(捏造・改ざん)を行なったと考えるのが細胞数の点からは強く示唆される。
 また、FACSによるOct4-GFP陽性細胞の発現量観察が虚偽であったとするならば、実験者は発現量に関わる実験において全てOct4-GFP陽性細胞(キメラマウス作成においてはCAG-GFP陽性細胞)による研究不正(捏造・改ざん)を意図的に行なったと考えるのが妥当である。
 法的認定としては明確に意図的にES細胞を混入したという点を留保するにしても、STAP論文の数量・発現量のデータは全く信用できるものではない。

5.論文著者の反証可能性

 STAP論文の実験プロトコルの虚偽(桂委員会調査報告書においてはATP不記載)であったことがわかっており、論文そのものは撤回されているため、論文内のデータは信頼できる科学的データとはみなせない。また、STAP研究時における実験記録そのものの真正性がないため、当時のデータは証拠資料になり得ない。
 また、論文著者である小保方による理研による厳格な検証実験の結果からも論文の主張は否定されている。
 つまり、小保方が科学的に反証する余地は全くない。
 STAP論文の評価に関して、ES細胞の混入は、法的認定としては明確に意図的にES細胞を混入したという点を確定的という意味では留保するにしても、「STAP研究は小保方によりES細胞を使った捏造が行なわれたのは(極めて高い蓋然性をもって)濃厚である」という結論は確定となる。

 この細胞数の矛盾や遺伝子発現量の実験は誰がやったのか、ということを考えるとSTAP事件の捏造の核心が何か分かるということだ。

【参考資料】
Rudolf Jaenisch, one of Daley’s co-authors, felt no constraint. “Clearly, Obokata gave Wakayama a mix of cells,” he told me. “He believed her and injected them, and he got beautiful chimeras—exactly what you expect if you are injecting embryonic stem cells.
THE NEW YORKER The Stress Test By Dana Goodyear February 21, 2016
海外の研究者には見抜かれています。