STAP研究において、Vacanti氏が関連特許を取得したことをもって、あたかも小保方の研究が正しかった、STAP細胞は存在したと言っている人がいますが、これは本質的なことを理解していません。
本質的な違いは「実施可能性(enablement)」と「再現可能性(reproducibility)」の違いにあります。

§1 実施可能性(Enablemetnt)とは

 アメリカにおいては、米国特許法 35 U.S.C. §112(a)に以下のように記載されています。
「明細書には、当業者(skilled person)が過度の試行錯誤なしに発明を実施できるよう、十分かつ明確に記載されていなければならない。」
 この記載が意味するものは、実験が論理的・整合的であり、当業者が実施できるのであれば良い、ということであって、その実験結果が再現できていなくても、実験操作が再現できるのであればいい、ということになります。つまり、特許が成立するための法律上の要件、文書の十分性を満たしているかということです。バイオ特許はこのようなものが数多くあり、結果が非常に怪しいものでも成立している現状があります。

§2 (科学に必要な)再現可能性(Reproducibility)とは

 これは、他の研究者が論文・特許明細書に記載された方法を用いて、同じ実験結果を得られることをいいます。「その実験結果が再現できていなくても、実験操作が再現できるのであればいい」という実施可能性 (Enablemetnt)ではダメで、実験結果が再現できなければならない、つまり、再現可能性(Reproducibility)がなければダメだという、ことです。

§3 特許の実務上の問題

 Vacanti氏の米国特許は、STAP の再現性ゼロ問題を避けるために、“具体的条件を削除し、極度に一般化し曖昧化した請求項”に書き換えたことで、実施可能要件を形式上クリアした、ということです。仮に結果の再現性がなくても、“広い概念を抽象的に書けば” 形式的には満たせるので特許は成立する(特にバイオ分野でよく使われる手口で、結果的に再現できないということがよくあります)。特許庁は特に実験の真偽を調べる訳ではありませんからね。

§4 結論

 特許において認められても、方法論の商業的な権利が認められたということであって、その方法論によって得られる結果は全く保証されるものではない、ということです。つまり、STAP研究が科学的に認められたということでもないということです。
 そのため、特許が認可されたものであっても、実施権を取得したい場合、(科学に必要な)再現可能性(Reproducibility)を確認した上で実施権交渉をすべきであるとの考え方が標準です。仮に実施権を取得した後に特許権者に「再現できないじゃないか」と言って訴えても、特許庁は特許権取消ということは手続き上しますが、損害賠償請求は棄却されることがほとんどになります。
 STAP研究は科学的に再現できずに、Vacanti氏は形式上、見かけの成果を保つために特許において方法論の権利を維持し、無駄な出費をしているだけ、という悲しい結果になるんですね。